中国留学レポート(1)
人間文化学部 谷口 理恵さん
中国留学レポート(1)湖南師範大学
1.留学志望動機
「中国は好きですか?」と問われて「好きです。」と即答できる日本人は正直少ないと思います。私自身、返答に困ります。ではなぜ私を含む多くの日本人が、中国に対して複雑な感情を抱くのでしょうか。私はその原因の一つに、日本人が中国人を「理解できない存在」と捉えていることがあるのではないかと思います。日本には多くの中国人が住んでいますが、大半の日本人にとって中国人と深く関わる機会はなかなかありません。その割にマナーの悪さなどの負の側面、反日デモなどの日本に攻撃的な印象は、メディアを通して連日のように伝えられるときもあります。そんな環境で、中国人がどんな文化や考え方を持っているのか理解するのは、なかなか難しいことだと思います。
私自身、中国人と直接喋ったことは無いにもかかわらず、出来れば関わり合いになりたくないと感じていました。しかし何かを嫌いでいるということは、結構エネルギーが必要です。その対象を目にするたびにイライラして、自分自身が疲れてしまうからです。その上経済発展を続け、存在感を増す中国の情報は日本にいても嫌でも耳に入ってきます。社会人になれば、今以上に中国と接していかなければならないかもしれない、そんな風にもやもやしていた時、大学に来ていた中国人留学生と喋る機会がありました。喋ってみて彼らがあまりに「普通」なことに驚きました。反日デモの映像から受けるような過激な印象はなく、積極的でノリが良く、お酒が大好きな楽しい人達でした。自分の中国人に対するイメージと留学生達から受ける印象があまりに違い驚くと同時に、中国とは実際にはどんな国なのか興味がわいてきました。中国とは、中国人とはどんな人々なのか、理解したいと思いました。そのためには実際に中国に行って自分の目で見るのが一番いい、そのように考えて私は留学を決めました。
2.言葉の問題での苦労
私はまったく中国語を喋れない状態で中国に行きました。本来なら最初にテストを受けてからレベル毎にクラス分けされるのですが、私の場合は受験手続きに行った事務室で言われた「座ってください」が理解できず、気付けば試験なしで一番下のレベルのクラスに入ることになっていました。授業が始まっても最初のうちは先生の喋る言葉がまったく理解できませんでした。クラスメイトも最初のうちはみんな中国語がほとんど喋れないので、英語で会話をする人が多く、英語も苦手な私はまったく話についていけませんでした。しかしユーモアのある先生や生徒が多く授業が楽しかったこと、そして文法が間違っていても気にせずどんどん喋ってくるクラスメイトのおかげで、1カ月もするとすっかりクラス全体が仲良くなっていました。そして耳が慣れるにつれて先生の喋ることも少しずつ理解できるようになり、10カ月ほど経った現在ではほとんど聞き取れるようになりました。
しかし一歩学校の外に出ると、状況はまったく違います。中国は地方毎にたくさんの方言があり、場所によっては共通語とは別言語か、と思うくらいの差があります。私の住む長沙市にも長沙弁というものがあり、長沙人同士の会話は今でもほとんど聞き取れません。ただ長沙出身ではない中国人もほとんど聞き取れないそうなので、あまり気にする必要はないのかなと思います。またたとえ共通語でも、外国人にも分かりやすいように簡単、かつゆっくりと喋るのに慣れた人以外の中国語は、なかなか聞きとるのが難しいです。
来たばかりの頃、まったく中国語を喋れなかった私が何よりも困ったのは、ルームメイトとの意思疎通でした。私の一人目のルームメイトはインド人で、中国語はもちろん英語も流暢でした。そのため最初のうちは、つたない英語でなんとかコミュニケーションをとりました。筆談も多く、常に電子辞書とペンとメモ帳が手放せませんでした。それでも理解できないときも多かったのですが、「どういう意味?」と何度も聞き返すのは面倒くさいと思われるのが怖く、わかったふりをしてしまうこともありました。ある日いつものように相手の話が理解できなかった私は、曖昧な返事で誤魔化そうとしました。ところが普段は穏やかなルームメイトに「言いたいことを我慢しないで!」と怒られてしまいました。相手が私のために怒ってくれたのがわかり嬉しいのと同時に、とても申し訳なくなりました。それまでも彼女は言葉が出てこなくて困っている私に、根気強く付き合ってくれました。そんな彼女に対してわかったふりをして誤魔化すなんて、とても失礼なことだと気付いたからです。「わからない」と言うのは恥ずかしいし怖いけれど、わかったふりをすれば相手に、この人の言うことは信じられない、と思われかねません。留学に行けば何度でも相手の言っていることが理解できない、という場面に出くわすと思います。ですがそんなときは自信を持って「すみません、あなたが何を言っているのかわかりません。」と言えばいいと思います。
クラスメイト達
図書館の庭で日向ぼっこ
3.友達
湖南師範大学には日本語学科があり、そこの学生主体で日本語コーナーという日本語や日本文化を学ぶ会が毎週行われています。学生達は日本語の勉強に熱心で、とても流暢に日本語を話せる学生もおり、すぐに友達も出来ました。このように恵まれた環境のおかげで、ほとんど喋れない状態だったにもかかわらず、私は中国人や他国の友達を作ることが出来ました。しかしもしこれから中国に留学したいという方がおられるならば、私はちょっとでもいいから中国語を勉強してから行って欲しいと思います。ほとんど喋れない状態のときでも友達はできましたが、一緒に遊びに行ったり、飲み会をしたりするようになったのは、やはりある程度の日常会話が出来るようになってからです。またその頃から友達の数も一気に増えました。少しでもいいので最初から中国語を喋ることが出来れば、留学生活をもっと何倍も楽しめたと思います。
しかしこれはあくまで私の場合です。私と同じくまったく喋れなかったにもかかわらず、豊富な雑学とコミュニケーション能力でどんどん友達を増やしていった日本人もいます。喋れないからといって不安を感じたり、留学を諦める必要はないと思います。
ルームメイトと
友達とクリスマスパーティー
(2012年1月)