【県大jiman】特別対談号 お互いの考古学の方向性について・今後の展望
お互いの考古学の方向性について
県大jimanスタッフ:お互いの専門分野について、気になっている部分などを語っていただけますか。
中井:去年の2月に、2泊3日という短い時間だったけれども、金先生と一緒に韓国に行きました。金先生は留学されていた経験があるから、色んなところを案内してもらった。やっぱり古墳時代の日本を研究するためには、日本だけでは絶対できない。だからすごく学ぶところがあったと僕は思っていて、一緒に行けてよかったですね。
僕が研究しているのは日本固有のもの、要するに城づくりだから、海外の影響なんて全く受けてないわけ。だけど例えば、古代の日本の朝鮮式山城とかを研究するときには、当然日本だけでは絶対に研究できないので、そういう意味では日本考古学といえども、朝鮮半島や大陸との関係を考えていかないと本来の古代の日本というのは復元できないだろうと思いましたね。
金:日本の古墳時代、向こう(朝鮮半島)では三国時代なんですけど、僕は県大に来るまでその時代の遺跡ばかり見ていたんですよ。でも、中井先生と一緒に行って、先生に案内してもらいながら倭城とかに行きました。「これまでなんで見てこなかったんかな」と思いましたね。古墳時代の研究だと、「朝鮮半島から日本に来るもの」がメインなんです。日本から朝鮮半島に行くものってあまり表立って多くないんですが、倭城って古墳時代のときと時代背景が全然違うんですけど、明らかに日本から来た人たちがそこにつくったものじゃないですか。僕がただこれまで通りの研究を続けているだけではおそらく行くことのなかった遺跡に一緒に行けて、広い視点を持つことができたなと思いました。良かったです。
ああだこうだ言いながら回るのって楽しいですよね。ここの石だけちょっと平べったいなぁって思って、「見てください!平べったいです!」ってみんなで盛り上がるのも楽しい(笑)
一同:(笑)
今後の展望
県大jimanスタッフ:お二人の今後の展望についてお聞きしたいです。特に中井先生は今年度で退官されるということで、一つの節目を迎えられます。そこで、こういうことに挑戦したい、みたいなことはありますか。
中井:どこかで言ったんだけど、『春となり 城三昧の 隠居かな』。退職ということで、大学教員のしがらみはこれでいったん無くなるわけですよね。だから本当に好きなことができる。嫌なことはしなくていい。隠居をして、今後の人生は好きになったお城のことを本当に好きな時間に好きなところで好きなようにやりたい。だけど、自分から城をとったら何も残らなので、やっぱりお城の研究は続けていきたいなぁと思っていますね。
県大jimanスタッフ:コロナ禍が収まったら、すぐさま行きたいお城ってどこですか。
中井:日本は独自で中世以降発達を遂げるんだけど、城って世界中にあるわけですよ。城のない国っておそらくないと思うんです。それってある意味、人類は常に戦争しているということなんですよね。だから、本来は人間にとって、城のない世界がいいのだけれども、ヨーロッパであろうが中国であろうがアメリカであろうが、必ず戦いのためにつくっているわけですよ。戦いの歴史を知ることはすごく大事なことで、単にお城が綺麗だということはもう別世界の話で、そういう意味で海外の城と比較することは大事なことだと思うんですよ。直接日本の城には影響はないけれども、日本国内の戦いでつくられた城と、どこかの国でつくられたものはなぜこんなに構造が違うのか、戦いの仕方が違うのかもしれない。そこから民族の違いのようなことも知れると思う。やっぱりコロナ禍がなくなって一番に行きたいのはどこかって言われると、僕はとにかく日本以外の城を見て、日本の城を見つめなおしたい。
金:僕は最近この大学に入ってきたばかりで、これまで続けてきた研究はこの先もマニアックに掘り下げたいとは思っているんですけど、一方でここへ来たことによって、専門とする時代が違う学生の皆さんと話す機会とか、一般の人に話をする機会が増えたんです。そうした中で、自分の研究と並行して、考古学そのもの普遍的な面白さ、というのを何らかの形で発信できないかな、と感じるようになりました。例えば、考古学で遺物を見る時って、その遺物の特徴が当時のどのような歴史を表していたか、どのような社会の在り方を反映していたか、というように、いかに歴史を復元するかというところに関心が置かれます。でも、実際に分析をしていて面白いのは、つくりがヘンテコな土器を見て、「この土器作った奴、へったくそやなぁ」って思うことですね。もっと言うと、「こいつ、へったくそやなぁ」って感じる中で、その土器を作った人間そのものが見えてくることかなって思います。なんだか身近に感じるじゃないですか。日本だろうが韓国だろうが、権力者だろうが庶民だろうが、所詮は人間なんだ、みたいな。考古学をやっていて感じる面白さを、いずれ形にして発信していければいいなと思っています。