環境科学研究科環境動態学専攻の西平幸生さん(2019年3月修了)が新種の魚類寄生虫を発見しました

2020年08月06日

写真:コイフタゴムシ Eudiplozoon kamegaii n. sp.

(写真:コイフタゴムシ Eudiplozoon kamegaii n. sp.)

※右側の破損部はDNA分析のため組織採取したところ。左右の長さ約9mm

コイ・フナに寄生する寄生虫フタゴムシEudiplozoon nipponicum(扁形動物門単生綱)は、1891年に新種として発表されて以来,単生綱の代表的な種として多くの研究が行われてきました。従来は、コイとフナに寄生するものは同一種で、日本からヨーロッパまで広く分布するとされてきました。しかし、環境科学研究科環境動態学専攻の西平幸生さん(2019年3月修了)の研究により,コイに寄生するものとフナ類に寄生するものが別種であることが突き止められ、その形態や遺伝的な違いが明らかにされました。従来のフタゴムシに該当するのはフナ寄生のものであったため、コイに寄生するものをEudiplozoon kamegaii Nishihira et Urabe, 2020(和名:コイフタゴムシ)と命名し,滋賀県草津市を模式産地として新種記載しました。


1.研究・調査等の概要
フタゴムシ属Eudiplozoonはコイやフナのえらに寄生する魚類寄生虫です。琵琶湖周辺の水田やビオトープから得られたニゴロブナ,ギンブナ,コイ(ヤマトゴイ型)を解剖し、得られたフタゴムシ類のDNA塩基配列(rDNAのITS-2領域)の調査を行いました。その結果,コイとフナ類から得られたフタゴムシ類には明瞭な差があることがわかりました。また形態比較を行ったところ,コイ寄生の虫はフナ寄生のものよりクランプ(※宿主の魚にしがみつくための把握器官)のサイズが大きく、約95%の個体はクランプ幅で判別が可能なことがわかりました。以上のことから,コイとフナ類に寄生する虫は別種であると判断し,コイに寄生するものをEudiplozoon kamegaii n. sp.(和名:コイフタゴムシ) として新種発表しました。この学名は財団法人目黒寄生虫館の創始者で、フタゴムシの研究をライフワークとされた亀谷了(かめがい・さとる)先生に献名したものです。また、フナ類に寄生する従来のフタゴムシEudiplozoon nipponicumに関しては、模式標本が失われていることから、高島市のニゴロブナから得られた虫体を新模式標本として指定しました。


2.成果のポイント

フタゴムシ(Eudiplozoon nipponicum)は、1891年の新種記載以来100年以上にわたって1種のみとされ、日本からヨーロッパまで広く分布する種であることから,単生類の代表的な種として数多くの研究がなされてきました。この度、コイ寄生のものとフナ類寄生のものが別種と判明したことで、真のフタゴムシ(フナ類寄生)は東アジアのみに分布し,ヨーロッパに分布するものはすべてコイフタゴムシであることがわかりました。また、日本とヨーロッパでコイフタゴムシのDNA塩基配列にはほとんど違いがないことから、コイフタゴムシは宿主(コイ)の人為的な移動に伴い、近年になって分布を広げた種であると考えられました。この結果はフタゴムシ類の自然分布域や宿主転換による種分化研究に重要な情報を提供すると考えられます。

3.論文誌への掲載、受賞、出版物の刊行や講演会等の開催情報
寄生虫学の専門誌であるFolia Parasitologica (オープンアクセス)第67巻(2020年7月28日公表)に掲載されました。

https://folia.paru.cas.cz/artkey/fol-202001-0018_morphological_and_molecular_studies_of_eudiplozoon_nipponicum_goto_1891_and_eudiplozoon_kamegaii_sp_n_mo.php