環境科学部生物資源管理学科原田教授らの研究グループが、伊吹山の希少植物イブキノエンドウは日本の在来種であることを明らかにしました
2023年12月5日
本学環境科学部生物資源管理学科の原田英美子教授、中島優介さん(2019年卒)、久保直輝さん(2020年卒)、伊藤丈留さん(2023年卒)、環境生態学科の野間直彦准教授、岐阜県立森林文化アカデミー/岐阜県森林研究所の玉木一郎准教授らの研究グループは、伊吹山に織田信長の薬草園が存在した証拠とされている希少植物イブキノエンドウ(図1)に着目し、分子集団遺伝解析の手法を用いて移入経路を調べました。その結果、伊吹山のイブキノエンドウは日本の在来種であり、薬草園伝説を支持する植物ではないことが明らかになりました。
図1:イブキノエンドウ(2018年5月25日、伊吹山上野登山道3合目付近で撮影)
研究の背景
伊吹山は、滋賀県と岐阜県の間に位置する標高1377メートルの山です。伊吹山には、南蛮人宣教師が織田信長の許可を得て開いた薬草園がかつて存在していたという伝説があります。現在伊吹山に生育している、イブキノエンドウ、キバナノレンリソウ、イブキカモジグサはヨーロッパに広く分布していますが、日本での分布はほぼ伊吹山に限られています。このため、これらの植物は宣教師たちが伊吹山に持ち込んだヨーロッパ由来の薬草に紛れて16世紀に移入したものである可能性があります。この説は、1920年に牧野富太郎が出版した論文にも記載されており、薬草園伝説の信憑性を裏付ける存在だと広く信じられてきました。また、イブキノエンドウは、北海道中部や南部にもわずかに分布しています。これらは伊吹山とは別の経路で、明治初期に牧草に紛れて海外から持ち込まれたと考えられていました。
成果の概要
研究グループは、伊吹山および北海道でイブキノエンドウを採取し、また、ドイツおよびロシア産の標本に由来するゲノムDNAを入手しました。葉緑体遺伝子マーカーの配列と、次世代シークエンサーを用いたゲノムワイド多型解析に基づいて、この植物の移入経路を調べました。その結果、日本のイブキノエンドウは単系統で、ヨーロッパ産植物とは明確に分かれることがわかりました(図2)。北海道産のイブキノエンドウは、海外から比較的新しい時期に持ち込まれた可能性が指摘されていますが、これ以外に、北海道開拓時代に滋賀県からの移民が伊吹山から移植したという説があります。しかし、集団分岐解析を行ったところ、北海道と伊吹山の系統は最終氷期の時代である約1万年前に分岐したことが明らかになりました。2021年に北海道南部の森林地帯でイブキノエンドウの新たな生育地が発見されたことも、この植物が牧草への混入や人為的な持ち込みに由来するものではなく、日本の在来種であることを裏付けていました。
図2:ゲノムワイド多型解析により得られた系統樹
以上の結果から、本研究は、伊吹山のイブキノエンドウは16世紀にヨーロッパから持ち込まれたものではなく、日本の在来種であることを明らかにしました。伊吹山および北海道のイブキノエンドウが貴重な集団であることが改めて示されました。
詳しくはプレスリリースをご覧ください。
論文タイトルと著者
論文タイトル:Phylogenetic, population structure, and population demographic analyses reveal that Vicia sepium in Japan is native and not introduced.
著者所属:
玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー/岐阜県森林研究所)
水野瑞夫(岐阜薬科大学名誉教授)
大槻達郎(滋賀県立琵琶湖博物館)
首藤光太郎(北海道大学総合博物館)
田畑諒一(滋賀県立琵琶湖博物館)
綱本良啓(東北大学大学院農学研究科(研究当時)、北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所(現職))
陶山佳久(東北大学大学院農学研究科)
中島優介(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科)
久保直輝(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科)
伊藤丈留(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科)
野間直彦(滋賀県立大学環境科学部環境生態学科)
原田英美子(滋賀県立大学環境科学部生物資源管理学科)
掲載誌:Scientific Reports (2023) 13:20746
オンライン掲載日:2023年11月25日
DOI(オープンアクセス)
研究助成
科研費 基盤研究C(研究課題番号:22K05721;研究代表者:玉木一郎;課題名:植物の遺伝情報を用いた伊吹山の織田信長の幻の薬草園伝説の検証)