県大の研究人!<キワメビト>~イマとコレマデとコレカラと~Vol.12

キワメビト第14号溝下晴香さん(人間文化学部人間関係学科4年生)

人との距離について意識を高める教育とは溝下さん

目が合う、「おはよう」と挨拶を交わす、隣を歩く。コミュニケーションの中で自然と、人と人の身体的距離が縮まることは日常的に起こります。しかし、見えない境界線を超えた接触に、相手への恐怖や疑念を感じることもあります。自身が傷つかないように、誰かを傷つけないように、適切な身体的距離とコミュニケーションをとる方法はどのような学びから身につけられるのでしょうか。

Q.取り組んでいる研究について教えてください

人間関係学科の学生は自身の経験や身近な課題意識から研究テーマを決める人が多いです。私の場合は、人からの接触に不快感を覚えた経験から、「生命(いのち)の安全教育」について研究しています。生命(いのち)の安全教育は、生命の尊さについて理解し、自分と他人の心と身体を守る、互いに尊重し合うための教育として2023年から始まりました。教育の狙いは、セクシャルハラスメントやデートDV、性暴力などの加害者、被害者、そして傍観者にならないための心の成長を促し、適切な態度や知識を身につけることです。子どもの発達段階に応じて内容が変わるのが特徴で、文部科学省は「指導の手引き」を幼児期、小学校低学年・中学年、小学校高学年、中学校、高校で分けて公開しています。しかし、どの程度取り組むかは学校に裁量を委ねており、十分に学習機会が与えられているのかは疑問です。また、日本では性教育を忌避する風潮があり、個人的に教育を試みた養護教諭や教員が社会的批判を受けた事例もあるため、内容も慎重に検討しなければなりません。まず、「生命(いのち)の安全教育」と銘打ってカリキュラム化したのはどういった意図があったのか、保健体育や道徳などの関連科とどういった点で差別化されているのかを有識者に聞いたり、日本の性教育の歴史などを調べたりしてまとめたいと思います。そして、十分に学校現場で普及するためにはどのような位置付けで取り組まれるべきなのかを考察していきたいです。

Q. ゼミを選んだ理由は?

1年生の時に環琵琶湖文化論実習という授業を受けたのがきっかけです。人間関係学科の先生方が滋賀にまつわる調査や探究のテーマについて紹介し、内容に興味を持った学生と先生が共に1年間簡単なゼミ活動を行います。また、先生によってテーマや運営スタイルが違いますが、本宮先生のテーマは琵琶湖産の「うなぎ」でした。養殖場の人や漁師さん、料亭の料理人へのインタビューを通して琵琶湖のうなぎ獲りの歴史や用いる漁具、漁獲量の近況などを調査しました。毎週集まって議論するスタイルでしたが、負担に感じるどころか先生に気軽に相談できる暖かい時間を過ごせたので、1年生の時から本宮ゼミに行こうと決めました。

Q. 先生はどんなお人柄?

人間関係学科には穏やかな先生が多いですが、その中でも本宮先生は、他のゼミの学生がふらっと遊びに来るほど話しやすい方です。「自分の中で考えをまとめてから相談しにいく」というよりは、細かく近況報告をしたり、わからないことをその都度フランクに聞いたりすることができます。

また外部のセミナーや講演会、ユニークな教育を行う学校の見学など、いつも面白そうな現場へ自ら出向いてアクティブに活動されています。そうした学外の活動に同行させていただくと、毎回たくさんの気づきや学びがあり、私たち学生もすごく充実した時間を過ごせています。

Q.この一年の意気込みを教えてください

私は中学生の時から警察官に憧れを持っていました。厳しい業種だとは思いますが、8月ぐらいまで警察官含む公務員試験に力を入れたいと思います。並行して、研究では「生命の安全教育」の意義などについて考察を進めていますが、教育による犯罪の抑止という側面でも深掘りすることができるかもしれません。他大学のゼミとの合同研究発表会も予定されているので、それに向けて準備していきたいと思います。

Q.先生にヒトコト!

近くにいると何か面白いことを体験させてくれる先生が大好きです。入学当初は心理学なども関心がありましたが、先生に感化されて今の研究テーマに至ったと思います。学校見学など外出する時にはご一緒させてください。

また、ゼミの中でホットケーキを焼いたり、ボードゲームをやったり、学生が企画した遊びも寛大にOKしてくださってありがとうございます。これからも、ゼミの学生たちと一緒に楽しく本宮研究室で過ごしたいと思います。

レクリエーション
卒業論文合同検討会でのレクリエーションの様子。
学生が企画して出し物を行なった。
パーティー
ゼミ室でのホットケーキパーティの様子。
本宮先生はモニターの向こう側で見守り中。

担当の先生に研究インタビュー!人間文化学部人間関係学科本宮裕示郎先生

本宮先生子どもたちの「今」を輝かせる学校のポテンシャル

学校で身につける力と社会で求められる力のギャップ

私は、教育学の世界に足を踏み入れる前に、6年間社会人をやっており、教育学への興味は、民間企業で働くなかで芽生えたものです。大学生の皆さんにとっても同じかもしれませんが、大学を卒業するまでは、入試や就職活動など何かしらの目的のために学ぶことを当たり前に感じていました。しかし、社会に出てからは、いろいろと学んでもすぐに結果が出ることはなく、思わぬところで学びが結実することを何度も経験しました。学校での学びとは異なる学びを社会のなかで繰り返し経験するなかで、学校と社会での学びの質の違いに興味を抱き、「学び」について学ぶために大学の門を再びくぐることになりました。

大学に入り直してからは、理論と実践の往還を意識しながら、研究を続けています。理論的な研究としては、「教養とは何か」を考察するために、教養概念をめぐって19世紀イギリスで展開された自由教育論争や、戦後の日本の代表的な教育学者である勝田守一や宮原誠一が説いた教養概念を研究テーマとしてきました。実践的な研究としては、学校現場の先生たちとともに、カリキュラムづくりや授業づくりを行っており、昨年度は国語科の授業に演劇的な手法を導入する授業づくりに取り組みました。その他にも、特徴的なカリキュラムを有する学校訪問を積極的に行っています。たとえば、最近訪れた南アルプス子どもの村小学校・中学校では、プロジェクトという子どもたちが実際に作ったり調べたりする活動の時間が時間割の半分以上を占めています。訪問した際には、子どもたちが羊を育てたり、小屋を建てたりと、プロジェクトを通して、自分たちの頭と身体をフルに活用しながら充実した学校生活を送っている姿が印象的でした。こういった事例を見聞きしながら、学校のより良いあり方について考え続けています。

学びのイメージをもみほぐす泥団子づくり

近年、不登校の子どもは年間35万人にもなり、フリースクールや学びの多様化学校など、学校生活にしんどさを覚えてしまう子どもたちの受け皿を充実させることが試みられています。一方で、固い・硬いイメージがともなう学校という場を柔らかくして、すべての子どもたちにとって心地よい場にすることも大切だと思います。学校に行きたくないけど・学校生活が辛いけど、学校に通っているという子どもたちはたくさんいるように思います。学校経験について学生の皆さんと話しても、ポジティブなものとして思い浮かべるよりも、受験勉強のストレスや、人間関係の難しさなどネガティブなものとして思い浮かべる人が多い印象を受けます。

これまでの理論的・実践的な研究を通して実感・痛感しているのは、学校を柔らかくするためには、学びに対する凝り固まったイメージをほぐすことが必要ということです。学力という共通かつ唯一の尺度で競い合う環境に身を置き続けることで、効率的な学び方や、無駄のない方法を求めてしまっても不思議ではありませんが、その結果、学びのイメージがとても小さいものになってしまっているようにも感じます。 たとえば、人間形成論Aという授業では、学生に泥団子をつくってもらっています。泥団子づくりの魅力・不思議はいろいろとあり語りきれないのですが(最近、泥団子について熱く語りすぎることが多く、周りからはあきれられています、興味があれば授業をとってみてください)、最初の授業で学生に「泥団子をつくります」と伝えると、多くの学生からは「なぜ?」「なんのため?」といった反応が返ってきます。おそらく泥団子づくりは何かの手段であり、何かの目的があると勘ぐってしまうということなのかもしれません。もちろん、授業ですので、泥団子をつくってもらう目的はあるのですが、泥団子をつくること自体を学びの目的にすることができない大人な反応とも言えます。学生の反応とは対照的に、当時小学生1年生の息子に泥団子をつくろうと誘うと、「いいよ」と間髪入れず返答してくれました。学生と息子の反応の違いに、学びは何かの目的の手段であり、学び自体が目的にならないという、今の教育課題の一つが見え隠れしているように思います。

ただ、泥団子づくりの力は大きく、渋々始めた(ように見える)学生であっても、つくり始めると夢中になります。自分がつくった泥団子に愛着を感じるだけではなく、自分自身や自分の子どものように感じる学生もちらほら出てきます。今この瞬間の自分の体験、自分の学びを目的にすることこそ重要なのだと思いますし、そういった時間を積み重ねることが未来や過去を輝かせることにつながるようにも思います。

泥だんご
授業で学生が作った泥団子
外遊び
学生同士が話し合って外遊びを決めている様子
学生同士が話し合って外遊びを決めている様子
【学生さんに一言!】

大学生活をとにかく楽しんでほしいです。どんな状況にあっても、楽しめると思ったら楽しめますし、できると思ったらできます。大切なのは、できる・楽しめるというイメージをもつことです。当然、就活など将来のためにやらないといけないことは沢山ありますし、就活を円滑に進めるためにやっておかないといけないことも沢山あるでしょう。しかし、人生の中で一番やりたいことをやれる時間は、大学生時代だと思います。挑戦したいことや思い出になるような楽しいことに取り組んで、泥団子に感じる愛着を大学生活にも感じてほしいと思います。ぜひ大学生活をピカピカに光らせてみてください。