賀茂川のオオサンショウウオ、交雑化進むー在来種は絶滅寸前、統計モデルで判明ー

2026年1月8日

概要

  • 滋賀県立大学環境科学部の高倉耕一 教授、京都大学大学院人間・環境学研究科 地球環境学堂の西川完途 教授、土田華鈴 特定助教らの研究グループは、京都市の賀茂川において、外来種との交雑が問題となっているオオサンショウウオ類の個体群動態を推定しました。
  • (研究の背景)国の特別天然記念物である在来種オオサンショウウオは、外来種チュウゴクオオサンショウウオとの交雑により、遺伝的独自性を失う危機に瀕しています。賀茂川流域は交雑が初めて報告された地域であり、京都市などによる調査が行われてきました。
  • (研究の手法と成果)本研究グループは、2005年から2021年にかけての134回の長期調査データを基に、状態空間モデルという統計モデルを構築し、ベイズ法を用いて解析しました。その結果、調査開始時の2005年頃には、日本産個体と中国産個体の配偶で生まれた第1世代目である雑種「雑種第1代」が最多でしたが、2021年時点では在来種は推定4.5個体、純粋な外来種も推定31個体と激減していることが判明しました。代わりに、雑種第2代以降の交雑個体が推定2800個体以上に増加し、現在の賀茂川の個体群のほぼ全てを占めていることが明らかになりました。
  • (波及効果・今後の予定) 調査1回あたりの個体の発見率は0.1%未満と極めて低く、現在の調査手法のままでは定着後の交雑個体の防除は困難であることも示されました。今後は、より効率的な防除手法の開発や、対象地域を絞った対策が急務であることが示唆されます。
  • 本研究成果は、20251117日に、学術誌「保全生態学研究(Japanese Journal of Conservation Ecology)」にオンライン掲載されました。

オオサンショウウオ画像➀.jpg
図1.賀茂川におけるオオサンショウウオ類の種構成変化(2005 vs 2021年)

2005年頃は雑種第1代(F1)が主流だったが、2021年頃には第2代以降(F2以降)の雑種に置き換わり、在来種はほぼ見られなくなった。

1.背景

生物多様性の喪失は深刻な環境問題であり、特に淡水生態系では外来種の影響が甚大です。外来種は在来種を捕食するだけでなく、近縁な在来種と交雑することでその遺伝的独自性を損ない、個体群を減少させる「遺伝的撹乱」を引き起こします。
日本のオオサンショウウオ(Andrias japonicus)は国の特別天然記念物であり、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されています。生息環境の悪化に加え、1970年頃に持ち込まれた外来種チュウゴクオオサンショウウオ(Andrias davidianus)との交雑が各地で確認され、問題となっています。京都市の賀茂川は、30年以上前から交雑の進行が指摘されてきた地域です。20247月からは、チュウゴクオオサンショウウオ全種および交雑個体が外来生物法の対象となり管理が強化されることになりましたが、野外個体群の実態は不明な点が多く、効率的な管理のための基礎情報が不足していました。

2.研究手法・成果

本研究グループは、京都大学および京都市天然記念物事業の関係者などが2005年から2021年にかけて賀茂川で実施した134回の調査データを基に、オオサンショウウオ類の個体群サイズを推定しました。
オオサンショウウオ類は夜行性で発見が困難であり、調査も不定期であるため、本研究では、個体群の動態を状態空間モデルとして構築し、そのパラメータをベイズ法で推定するという統計手法を採用しました。これは、観測(調査)で得られるデータ(発見個体数)と、直接観測できない「状態」(実際の個体群サイズ)を分けてモデル化し、個体群の動態を推定する手法です。
解析では、個体を「日本産(在来種)」、「中国産(外来種)」、「雑種第1代(F1)」、「世代不明交雑個体(F2以降が主と想定)」の4グループに分類し、それぞれの個体群サイズの経時変化を推定しました。
主な成果は以下の通りです。

  1. 交雑個体への完全な置き換わり: 2021年時点で、在来種は推定5個体、純粋な中国産も推定31個体と、ほぼ見られないレベルまで減少していました。賀茂川の個体群のほとんど(推定2822個体)が「世代不明交雑個体」に置き換わっていました。
  2. 交雑の世代交代: 調査開始時の2005年頃は「雑種第1代」が最も多く、この16年間で「世代不明交雑個体」へと主流が移り変わったことが示されました。これは雑種第2代以降への世代交代が進んだことを示唆しています。
  3. 在来種・F1の老齢化: 在来種や雑種第1代の生存率は調査期間中に低下傾向を示し、既存の個体が老齢化している可能性が示されました。
  4. 防除の困難さ: 調査1回あたりに個体が発見される確率(発見率)は08%未満と極めて低いことが推定されました。これは、現在の調査手法(捕獲・除去)を継続しても、個体群サイズを抑制するほどの効果は期待できないことを示しています。

オオサンショウウオ交雑個体.jpg
▲調査で発見されたオオサンショウウオ交雑個体.調査は主に夜間に行った
2024年4月18日京都市左京区(撮影:土田華鈴)

3.波及効果、今後の予定

本研究により、賀茂川水系では在来種オオサンショウウオが交雑によってほぼ絶滅状態にあり、交雑個体も世代交代が進んでいることが明らかになりました。また、交雑個体定着後の防除の難しさも定量的に示されました。
今後は、オオサンショウウオの保全のため、交雑個体が定着している地域において外来種・交雑個体の防除を行うにあたり、対象地域を限定した低減管理や、高電圧電流を用いた電気魚類採捕装置(いわゆる電気ショッカー)や巣穴トラップの使用など、より効率的な捕獲手法および保全対策の開発・検証が急務です。公的な防除事業においては、本研究のような個体群サイズの推定を継続的に行い、その効果を評価しながら事業計画にフィードバックしていくことが不可欠です。

4.研究プロジェクトについて

本研究における野外調査は、文化財保護法(文化庁)の許可の下、京都市文化市民局文化財保護課、京都水族館、一般社団法人兵庫県自然保護協会、ボランティアの方々の多大なご協力を得て、実施されました。

用語解説

  • オオサンショウウオ(在来種, Andrias japonicus): 日本固有種で、国の特別天然記念物。岐阜県以西の本州、四国、九州の一部に生息する世界最大級の両生類。環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)。
  • チュウゴクオオサンショウウオ(外来種, Andrias davidianus): 中国大陸原産。食用として1970年頃に日本に持ち込まれたとされる。
  • 交雑個体: 在来種と外来種が交配して生まれた個体。本研究では、親世代の交雑で生まれた「雑種第1代(F1)」と、それ以降の世代(F2や、交雑個体と親種との戻し交配など)を含む「世代不明交雑個体」に分けて解析しました。
  • 状態空間モデルとベイズ法: 状態空間モデルは、観測(調査)によって得られるデータ(発見個体数)と、直接観測できない「状態」(実際の個体群サイズ)を分けてモデル化する統計手法です。本研究ではこのモデルを構築し、ベイズ法という統計的手法を用いて、不確実性を含めた形で個体群サイズを推定しました。調査が不定期であったり、発見率が低かったりする場合でも、個体群の動態を推定するのに適しています。

研究者のコメント

「生き物を本来の生息地ではない場所に逃した(または逃げ出した)場合、本研究のように絶滅危惧種や、日本の国宝とも言える特別天然記念物に大きな悪影響を与えることがあります。本研究の成果が、今後、似たような問題を生じさせない抑止力になれば幸いです。」(京都大学 西川完途)

「オオサンショウウオ類の保全や外来種・交雑種の防除に限らず、公的な資源を投入して行う事業では、実現可能性や完了時期を見積もって立案し、実施途中でもその効果を定量的に評価しながら進めることが必要です。もともと個体数推定を目的として収集されたデータではなくても、適切な仮定や手法を用いることで、ある程度の推定が可能であることが本研究から示されました。このような定量的な評価が他の生物や他の保全・防除事業でも広く行われることが望ましいと考えています。」(滋賀県立大学 高倉耕一)

論文タイトルと著者

  • タイトル:賀茂川におけるオオサンショウウオ類の個体群サイズ推定
    (Estimation of Japanese giant salamander populations in the Kamo River)
  • 著者:高倉耕一、土田華鈴、松井正文、富永篤、吉川夏彦、江頭幸士郎、福谷和美、福山伊吹、山本和宏、松原康平、大沼弘一、原壮大朗、西川完途
  • 掲載誌:保全生態学研究 (Japanese Journal of Conservation Ecology)
    DOI:10.18960/hozen. 2504

研究に関するお問い合わせ先

  • 高倉 耕一(たかくら こういち)
    滋賀県立大学 環境科学部
    TEL:0749-28-8323
    E-mail:takakura.k@ses.usp.ac.jp
  • 西川 完途(にしかわ かんと)
    京都大学大学院 地球環境学堂 地球親和技術学廊 生物多様性保全論分野
    以下に連絡用メールフォームあり
    https://www.h.kyoto-u.ac.jp/academic_f/faculty_f/nishikawa_kanto_1b9d/

報道に関するお問い合わせ先

  • 滋賀県立大学経営企画課
    TEL:0749-28-8234 
    FAX0749-28-8475
    E-mail:keiei_kikaku@office.usp.ac.jp
  • 京都大学広報室国際広報班
    TEL:075-753-5729 FAX075-753-2094
    E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

(@を半角に直して送信してください)

<参考図表>

オオサンショウウオ画像➁.png

2.オオサンショウウオ類の推定個体群サイズ(中央値)の経時変化(2005年~2021年)

a.日本産(在来種)は調査開始時点で100300個体と推定されたが、2021年には推定中央値4.5個体にまで減少した。
b.中国産(外来種)も同様に減少し、2021年には推定中央値31個体となった。
c.雑種第1代(F1)は調査開始時に最も多かったが、その後急速に減少した(2021年:推定中央値168個体)。
d.雑種第2代以降と見られる世代不明交雑種は調査開始時は比較的少なかったが、一貫して増加傾向にあり、2021年には推定2800個体を超え、賀茂川におけるオオサンショウウオ類の主流となった。(実線:中央値、破線:95%信用区間)

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賀茂川のオオサンショウウオ、交雑化進む―在来種は絶滅寸前、統計モデルで判明―